経営者の確固たる決意表明

コミットメントとは?

国際規格ISO9001には、コミットメント(Commitment)という言葉が使われている。具体的にはどういう行為を指すのか、理解に苦しむ経営者がいるかもしれない。そもそも、コミットメントに相当する的確な日本語がないのだから、困惑して当然なのである。ただ、日産自動車のカルゴス・ゴーン氏が盛んに社内で使ったので、今では普通に使っている方もいるかもしれない。

この国際規格の条文で使われているコミットメントとは、「確固たる決意を表明すること」とすれば、理解しやすい。つまりは経営理念やビジョンを解りやすい言葉で表現し、自社の隅々まで伝わるように徹底し、全社員の理解を求める行為である。一部の日本企業で見られる、創業者が作った「社是」とは異なるので注意してほしい。また言葉だけでなく、経営者が機会ある毎にその内容を繰り返し、自ら行動を示すべきである。

国際規格ISO9001では、精緻な説明がなされているが、その前に公式の質疑応答でどのように答えているかを紹介しておこう。

「コミットメントそのものは、「掛かり合う」、「言質を与える」と言った意味から、「5,1 経営者のコミットメントのa)、b)、c)、d)項の実行を通じて、品質マネジメントシステムの開発と継続的改善に関わりあう(責任を果たす)、を要求しています。(BVQI ISO9001:2000年版 改訂の質疑応集より引用)

経営者の責任の下で品質マネジメントシステムを計画し、展開し、実践し、検証し、改善する行動が行われなくてはならない。そのためには企業目的に一貫性を持たせ、その達成に社員全員が参画する社内環境を醸成し、維持することが、企業の業績を向上させる結果を生むと主張しているのが国際規格ISO9001である。品質マネジメントシステムは効果的で効率的でなければならないとも国際規格は指摘している。効果的で効率的な品質マネジメントシステムであるならば、顧客の満足が高まり、すべての利害関係者の利益につながるという概念がここでも反映されている。

では、効果的で効率のよい品質マネジメントシステムを構築し、実践するには経営者は具体的に何をどうすればよいのかを示そう。

経営者の理念に基づいて品質方針を策定する。企業の顧客満足を高めるとともに、社員、株主などの他の利害関係者に対しても有益である組織を構築する。はっきりと目に見えるような形でリーダーシップを発揮する。となると、以下のような行動を経営者が行うことが必要となる。すなわち、

  • 従業員の意欲を高める。
  • 材料、部品などの供給者との価値作りを行える関係を創造する。
  • 社会の動きに迅速に対応する。
  • 株主への利益還元を向上させる。
  • 品質目標と関連する達成目的を明らかにする。
  • 経営資源を適切に配分する。
  • 定期的に品質達成度を見直す。
  • 継続的な改善の風土を育てる。
  • 将来を見据えた組織構築計画(経営の変革)を立てる。

「目標展開」と「方針管理」の違い

2000年版ISO9001では、目標展開という概念が採用されている。品質目標を各部門、そしてさらに下の部門に展開させることを求めている。これは多くの日本企業で採用されてきた方針管理と類似しているが、国際規格が求めている目標展開はそれほど厳格で精緻なものではない。企業全体の目標を達成するために、各部門が受け持つ分だけ各自の目標に置き換えるだけである。経営者、部、課といった構造の企業組織であれば、全社の品質目標を必要に応じて部や課単位の品質目標に展開することになる。なお。目標であるから、何らかの尺度で定量できて、その進捗状況を判断できなければならない。

利害関係者の要求を完璧に理解する

利害関係者の中でももっとも重要な顧客から話を始めよう。

顧客のニーズと期待

「顧客の要求については言われなくても理解している」と反応した経営者でも、しばらく考えて「うーん、それが分かれば苦労しない」という心境になるのではなかろうか。それだけ顧客の要求を満たすことは生易しくないのである。特に顧客の要求内容がすべて明らかになっていない場合にはしばしば直面する問題である。顧客ニーズや期待を明確に判断するには、社員の能力に左右される。顧客のニーズと期待を受け手になる技術部門や製造担当者に正確に伝えなければならないが、それができないために顧客仕様に変換するに当たって問題を生じさせることもままある。

2000年版ISO9001では、企業は本質的に直接の顧客とその最終顧客に依存しているとしている。しかも、現時点だけでなく、クルクルと変わる顧客ニーズを捉まえる必要があると理解師なければならない。しかしながら、顧客自身が製品化を望むニーズをすべて明確に理解していないこともあるから、これは必ずしも容易なことではない。期待はずれだと言われることが多々あるのはこれが原因である。ともあれ、顧客はまがままで、製品がすべての仕様を充たし、信頼性があり、いつでも入手可能であり、必要とする時間に納入され、アフターサービスも良く、価格も妥当であることを望んでいる。

現在のように市場がグローバル化されると、顧客のニーズと期待を明らかにするために必要な作業は複雑で困難なものになるが、次のように整理すれば理解しやすい。

  • 誰が顧客かを決める。その場合、顧客を直接的な顧客だとか株主など利害に関係する顧客などカテゴリ別に区分すれば分かりやすい。
  • 競争市場は、地域社会、国内、世界規模のどちらであるかを決める。
  • 市場での競争の過酷さがどの程度かを見定める。
  • 製品やサービスの基本的な特徴と顧客に付与できる価値は何かを見極める。
  • 市場参入の難易度やいつが好機か、弱点は何か、将来の競争面での有利さを明確にする。

このような基本的な事柄を支障なくクリアできる企業に育て上げる責務が経営者にはある。これを顧客志向の経営という。顧客志向の経営ができていない企業は、必然的に経営者を含めて社員の意識変革が求められる。それができなければ、市場からの退場という運命が待っている。

社員の意識と意欲

我が社の宝は従業員です、と公言するCEOは数知れないが、はたして何人がその意味を本当に理解しているだろうか?企業経営のこの真理を何人が日々実践しているだろうか?おそらく一握りに過ぎまい。

「CEOになると、生き残ることやお金のことで頭がいっぱいになる。敏感に反応するのは金融市場や株主などに対してだけ。人材重視を決意しても、ひとたび会社の財政が厳しくなるとどこかにふっ飛んでしまう」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)のエドガー・シャインは言う。だが、どうやらジャック・ウエルチは例外らしい。彼の経営流儀では、人材は日々の糧にも等しい。物を言うのは人材だーーーウエルチは周囲の人間にもこの信念を注入する。ウエルチは語る。

「われわれはすべて従業員に賭けている。権限を分け与え、資源を与え、彼らの邪魔をしないように心掛ける」(「ウエルチ 勝者の哲学」PHP研究所より引用)

社員の意識を高揚させ意欲を高めるにはウエルチの哲学が一番だろう。

所有者、もしくは投資家

一般投資家を含む株主、個人もしくはグループに対して、経営者は事業運営から生まれた資産価値を増やすという大きな責務がある。彼らが望む長期の期待価値、もしくは利益はいくらかを明白にしなくてはならない。

今後、日本でも経営の指標としてキャッシュフローが重視されるようにあるだろう。従来の貸借対照表や損益計算書では、本当の企業価値や株主価値が評価できないので、キャッシュフローを企業価値の指標とする企業が必然的に増加すると思われる。企業の稼ぎ出すフリーキャッシュフローこそが企業運営の成果を表し、経営者の成績簿となるかである。

国際規格は、このような財務指標の利用を強制はしていない。しかし、株主を重視しなければ経営が成り立たない企業ならばキャッシュフロー計算書の導入は避けられないだろう。

では、ウエルチの言葉を聞こう。

「あらゆる測定をしておきながら、なに一つ理解していないケースが多い。ビジネスで最も大切な測定指標は、顧客の満足度と従業員の満足度とキャッシュフローだ。顧客の満足度が高まれば、世界市場でのシェアは拡大するだろう。従業員の満足度が高まれば、生産効率が上がり、品質が向上し、自尊心が高まり、創造性がさらに発揮されるはずだ。キャッシュフローは心臓の鼓動であり、企業が生きていることを示す最も大切なサインである」(「ウエルチ 勝者の哲学」PHP研究所より引用)

供給者とパートナーシップを

多くの企業の業務は、原料メーカーや下請け企業と相互に依存する関係を持って運営されている。お互いをパートナーとして意識する良好な関係にまで発展させれば、両者の協力で高い価値のある製品やサービスを創造する力が強くなり、競争力を強化できる。このような関係は、共同で戦略を策定する、知識やリスクをも共有することで生まれる。国際規格を策定する段階で議論された供給者とのパートナーシップを築くためのポイントをまとめておこう。

  • 供給者、下請負契約者、および流通業者の中から、自社にとってもっとも重要な業者を選ぶ。
  • 顧客ニーズと期待を明瞭に理解する上で、自社単独で行うのではなく供給者と共同で行う。
  • 供給者自身のニーズと期待を明確に理解するために供給者と真摯に話し合う。
  • パートナーとの関係を中長期的に継続して保持する目標があることを明確にさせる。

日本での供給者との系列関係と、ここでのパートナーシップとしての関係とは似てはいるが、根本的な違いがある。欧米での企業と供給者との関係は、平等の力関係を保ち一対一である。それに反して、日本では上下関係が優先され、親会社は供給者を隷属的に従わせている。供給者自身も独立した企業であることの意識に欠けているならば、是正することも必要となろう。

一般社会

エネルギーや天然資源の保護、社員の健康と安全、職場環境と保全などを企業の責任とすることが国際規格策定の背景になっている。このような企業責任を無視しては長期的に企業が存続することはできないという意図がある。いわば企業の危機管理の一環とも言える。一般社会と調和する関係を築くには、次のような事柄を守る必要がある。

  • 企業が順守する法令および法的規制が何かを明確にする。
  • 製品とサービスと企業活動が、現時点だけでなく将来に亘って、一般社会、特に地域社会に与える影響を明らかにする。
  • もし、改善が求められる事象やニーズがあれば、それらを明確に認識し、改善のための施策を策定する。

国際規格は、経営者がいかなることを行う必要があるかを具体的に要求していないが、環境マネジメントシステムや安全・衛生マネジメントシステムをも構築することが望ましいと示唆している。