顧客志向に徹底したシステム

企業活動とは、企業が顧客満足を獲得する意図をもって、モノやサービスを生産する過程である。国際規格ISO9001は、企業活動の目的を達成する上で強力な武器を提供している。ただし、英国国家規格を格上げすることで成立した94年版規格ではモノ作りやサービスの向上に重点が置かれ過ぎていた。これに対し2000年版ISO9001は、「顧客志向のマネジメントシステム」というカラーを明確に打ち出している。国際規格ISO9001は、その目的達成の強力な武器となりうる。

本来顧客は、顧客自身が持っているニーズと期待を満たすようなモノやサービスを要求しているのであるが、供給者側はそのニーズと期待を一方的に決めつけて、モノ作りやサービスをて提供するという間違いを犯しがちである。別の表現するならば、顧客のニーズと期待は絶え間なく変化し、新しいニーズや期待を待った顧客が生まれてくるにもかかわらず、それに反応や対応ができず、顧客を満足させえないというリスクが絶えず存在するとも言える。

国際規格ISO9001の求めているのは、この変化に素早く気付くための業務プロセスの集合体であるマネジメントシステムの構築である。

企業運営をシステム化

企業運営の四要素

国際規格ISO9001が提唱する企業運営のモデルは、四つの要素から構成されている。すなわち、

  1. 企業にかかわる利害関係者(顧客はもちろん、社員や株主を含む)のニーズと期待を明らかにし、それを充足することで競争力を強め、企業活動を効率的かつ効果的に実践する。
  2. ベストプラクティスを求めることにより、企業の競争力を高め、企業業績を向上させる。
  3. 最高経営責任者はリーダーシップを発揮し、すべての業務の効率を高めるとともに、個々の社員が成果を擧げられるよう支援し、その能力を開発する。社員の満足度が上がれば、顧客満足を高められる。結果として売上げ金額、利益、マーケットシェアを向上させられる。
  4. 事業運営に必要な資源を的確に確保しなければ、結局、資源の消失を招く。つまり欠陥のある製品やサービスを市場に出すと、市場での競争力を失う。さらにマーケットシェアの低下、企業イメージ・評判の損傷、顧客苦情、製造者責任上の損害、人的財務的損失のなど追加的な損失が次々に重なる。

これで理解できるように、国際規格ISO9001品質マネジメントシステムは、企業運営のクオリティを高め、好ましい企業業績を継続的に実現するように構成されている。下図は、ISO9001に採用された品質マネジメントシステムのモデルである。

(注:本書を執筆している時点では、このモデルは公開されていなかった)

TQMの考え方

このモデルを構成する各々の要素は相互に密接な関係を保持している。経営者は「経営者の責任」の下で品質マネジメントシステムを構築し、事業運営に必要となる「ヒト、モノ、カネ、そして情報」などの資源を確保するために「経営資源の管理」を行う。

顧客の要求を充たす製品の生産やサービスの提供のための業務プロセスを確立し、「製品の実現」を具現化する。

「測定・分析・改善」のプロセスを通じて、製品やサービスのクオリティと顧客満足の度合いを測定し、結果を評価し、さらなる向上を目指す。

これら一連のプロセスを評価した結果は、「経営者の責任」の一つであるマネジメント・レビューで討議される。もちろんだが、外部に委託している業務も監査され、その結果が納入実績とともにレビューされる。Total Quality Management(TQM)でのPDCAサイクルを絶えず回転させて企業業績を向上される仕組みを国際規格ISO9001は提示している。

マネジメントシステムの構築

品質マネジメントシステムのポイント

企業の顧客のみならず、社員や株主などの利害関係者の満足を充足する手段の一つが品質マネジメントシステムである。一般的に知られているTQMの思想を取り入れ、企業の業績を高めるのが目的である。

94版規格では言及していない事業業績(Perfomance)という言葉も取り込まれ、品質向上活動を推進することの結果が業績に反映されるとしている。

適用範囲

94年版規格では、設計・開発の業務があればISO9001を選択し、なければISO9002の要求事項を充たす品質システムを構築する方式であった。ところが、2000年版ISO9001では、設計開発業務のない場合には適用範囲からそれを除外して品質マネジメントシステムを構築すればよいことになった。ただし、除外する婆にはなんらかの合理的な理由が品質マニュアルに明記する必要がある。さらに設計・開発のみならず、国際規格ISO9001の7章「製品の実現:の要求事項ならば除外できる。ただし、製品の生産能力と製品品質に影響を及ぼすことがないとことが除外の条件となる。除外した場合の正当な理由と説明が必要になることは当然である。

ISO9001規格の解釈についての公式の質疑応答では、次のように述べている。

適用除外が、

  1. 7章の要求事項に限定され、
  2. 製品及び組織の性格上妥当であり、かつ、
  3. 適合製品を供給する組織の能力と責任に悪影響を及ぼさない範囲。

であれば、除外の正当性は認められます。(BVQI ISO9001:2000年版 改訂の質疑応集より引用)

適用範囲を除外できるからといって、好き嫌いや自己判断でシステムから外すことはできないが、小規模な企業で単純な製品の製造業やサービス提供などでも品質マネジメントシステムを複雑にさせることなく構築できる大きな利点がある。

引用規格と用語

国際規格には必ずこのような項目が設けられている。ただし、重要な記述はほとんどない。理解すればよいと思われることを強いてあげれば、次のようなことだろう。

  • 引用規格としてISO9000「品質マネジメントシステムー基本および用語集」がある。
  • サプライチェーン(供給の連鎖)を”供給者ーー>組織ーー>顧客”という記述がる。94年版規格では、用語として”下請負契約者”であったが、”供給者”に変更された。

国際規格ISO9001を理解する上で困難に遭遇したならば、ISO9000を読むことが必要かもしれない。しかし、これとて難解で理解するには努力が求められる。

ここで個人的な意見を申し上げる。日本語に翻訳されているISO9001は、必ずしも原文と同じ意味やニュアンスが反映されているとは思えない。これが原因と思われる外部監査員との意見の相違が起きている。よって、英語版の原文を読むことを強く推奨したい。

品質マネジメント原則の採用

94年版は、業務の流れよりも企業全体の業務を20の切り口で整理しそれぞれの業務プロセスを確立することで品質保証を確保するという性格を持っていた。国際規格ISO9001は、企業業務の流れに沿って、品質を確保するために必要とされる要求内容を規格として規定する意図が明確に打ち出されている。すなわち、プロセス志向の規格と言える。

企業を成功に導くには、経営者が強いリーダーシップを発揮し組織を指揮するだけでなく、誰にでも分かる公開性の高い、体系的な企業運営が求められる。企業運用からもたらされた成果は、品質マネジメントシステムを確実に、そして真摯に運用し、顧客や社員などすべての利害関係者のニーズや期待に答えたからこそ与えられた賜物である。

品質マネジメントシステムは、以下の八つの品質マネジメント原則に基づいて策定された。

顧客志向の組織  組織は、顧客があっての組織である。したがって、現時点のや期待のみならず、将来に亘って理解に努め、顧客要求を満たし、顧客の期待を越えるよう努力する。
リーダーシップ   経営者は、組織の向うべき目的と方向を図る。リーダーは、組織の目標を達成する上で従業員が全面的に参画することができる内部環境を創造し、維持しなければならない。
従業員の参画      すべてのレベルの従業員は、組織のかなめであり、彼らの全面的な参画が組織に恩恵を与えるようにその力を発揮している組織風土を醸成する。
プロセスア志向   業務活動とともに関連する経営資源が一つのプロセスとして管理された時には、望ましい結果がより効果的に達成される。
システムアプローチの経営  システムとしてプロセスを明らかにし、理解し、運営することが、組織の目標を達成する上で組織の効果および効率に貢献する。
継続的改善   組織の全般的な業績の継続的改善は、組織の永久的な目標でなければならない。
事実に基づく意志決定  効果的な意志決定は、データと情報の分析に基づく。
供給者との相互互恵関係  組織と供給者とは相互依存関係にあり、相互互恵関係は、価値創造のための両者の能力を高める。

これら品質マネジメント原則8要素が、国際規格ISO9001のあらゆる条文に反映されていると考えなければ、規格そのものの理解が浅くなり、自社が構築した品質マネジメントシステムが必ずしも企業業績の向上に貢献できるとは限らないと指摘しておく。