顧客満足の獲得を目指して

供給者側の構造改革が急務

1983年レーガン大統領の政権下で誕生した「大統領産業競争力会議」は、当時の日本やドイツの製造業を徹底的に分析して、米国企業の競争力強化を図るために設置された。この会議から生まれた米国経営品質賞「マルコム・ボールドリッチ賞」は、多くの米国企業の経営に大きな影響を及ぼした。日本が「失われた十年」と揶揄されていた時には、米国経済は堅調に推移した。

レーガン大統領は、それだけの指導力を発揮していたにもかかわらず、当時の米国国民の大統領に対する評判は決して高くなかった。その後米国産業は高い競争力を伴って蘇生した。今日現在は米国国債の格付けが下げられるという事態が起きたが、米国経済は堅調に推移してきたことだげは確かだ。一昔も二昔も前に米国に教材を提供していた当時の日本は、「米国から学ぶものはない」と豪語していた。しかし、今や教材を米国に求めるという逆転現象が起きてしまった。

1999年当時、日本経団連は、日本企業の体質を強化し、国債競争力を高めることが急務であると認識して「産業競争力会議を立ち上げた。その検討テーマには、供給者側の構造改革、高コスト構造の是正、人材確保と育成などが含まれていた。経団連副会長 前田勝之助氏は、次のように指摘している。

二十一世紀に向け日本経済は持続的な成長起動に乗せるうえで、産業競争力の強化は急務だ。中でも貿易立国日本の屋台骨であり、第三次産業への波及効果も大きい製造業の活性化を官民協力で進めるべきだ。製造業の基盤強化には高コスト構造の是正と次世代を担う新産業の創出が不可欠。供給構造の改革と併せ具体策を急ぐ必要がある。(日本経済新聞 1999.4.7)

しかし、政府が何かしてくれるまで待てないのが、日本企業だった。直ちに何かを始めないと、二十一世紀に生き残れない可能性があった。日本でも米国のマルコム・ボールドリッチ賞をコピーした日本経営品質賞がある。ただ、要求される内容が緻密で広範囲であるために、経営モデルとして採用できる企業は多くない。

そこで登場したのがISO9001のプロセスモデルである。これはすこし努力すれば、大方の企業が応用できる経営モデルだ。自治体がISO9001認証取得を入札条件にしたり、大企業がサプライチェーンに入る企業に要求したこともあり中小企業を含め多くの企業が採用しているのが現状である。一部には、いやいやながら採用せざるを得ないという事態が起きたことも否めない。だが、業務プロセスを一つのシステムとして体系化することは、日本企業には必要なことだという認識は2011年現在も変わっていない。


真の顧客志向経営を

カストマー・ファースト、顧客側に軸足を置く、顧客の目線の合わせてとか昔から多くの言葉で表現された顧客志向経営だが、本当に意味を知って使っているのかが疑わしく思われる場面や事象が多々ある。一昔前のことだが、「顧客の期待や要求が予想以上に早く変化したので、対応できなかった」と堂々とテレビで発言する経営者いるのはどうしてだろうか。安くて品質の良い物を作れば必ず売れるという製造業や、質の高い品物の品揃えをすればいいというサービス業など供給者側の論理を顧客に押し付けていただけで、本来の顧客志向経営を具体的に実行していなかった証拠である。

今では、多くの企業が顧客満足度を調査している。しかしながら、ややもすると調査することが目的化され、利用が十分に行われていないのではないだろうか。売上げ額、利益率、販売シェアなどは、今でも重要な経営指標である。だが、顧客満足調査結果を最高位の経営指標としている日本企業がいくつあるのだろうか。大手企業が販売価格を談合していたという報道が2011年の今もあった。競争企業との価格談合は顧客満足などまったく無視した行為である意識が欠落していたとしか思えない。食品の賞味期限を偽って表示した企業にISO9001システム構築を指導した経験がある。品質マネジメントシステムの認証を取得したとしても経営者が真の顧客志向は何かという意識がなければ何の役にも立たない。

米国大手百貨店J.C.ペニー会長であったJ.オエストロイカー氏は、次のように語っている。

変化するお客様のニーズを満足させてこそビジネスの成長がある。これは永遠の真理だ。そしてその真理は数年ごとに繰り返して何度も学ばざるを得ない真理だ。(日本経済新聞)

顧客満足度調査の精度を高めると同時に緻密な分析を行い、分析結果を経営判断の第一義的な情報とするところまで高める。言い換えれば、ある商品やサービスが顧客にとってどのような価値があり、どの程度満足感を得たのかを判断基準とする経営である。その結果、正確な顧客情報を大量に所持し、経営判断が正しい企業の業績は上がるのは当然のことだろう。

顧客満足を得るには、顧客が何をしてほしいか、何を期待しているいるかを正確に、しかも早く受け取ることが必要になる。そのためには、

  • 経営者のみならず社員にも顧客情報に敏感に反応する高い意識が備わっている企業風土
  • 様々な経路を経て伝わってくる顧客ニーズをいち早く捉え、経営の判断材料に組み込めるような仕組み作り

が必要になる。この顧客志向経営の仕組みを体系化して導入できるのを可能にしているのがISO9001である。企業の規模に関係なくシステムを構築できるように汎用的な規格であることも大きな特徴である。


品質保証から品質マネジメントへ

1987年に発行された国際規格ISO9001は、「品質保証規格」という名称が付けられていた。この国際規格は、1994年に改訂されたが大きな 変更はなかった。しかし、2000年には大幅な変更が行われた。名称も「品質マネジメントシステム」と変更した。現行の2008年版ISO9001は、 2000年版に比べててもほとんど変わっていない。

さて、欧米の企業を中心に、多くの企業や組織で採用されている品質マネジメントシステムの要素はたったの八つである。

  1. 顧客志向の組織を作る。
  2. リーダーシップを発揮する。
  3. 社員の参画を求める。
  4. プロセス志向を徹底する。
  5. システム型経営を実践する。
  6. 事実に基づく意思決定を行う。
  7. 供給者とはWIN-WIN関係を築く。

これら八つの要素をマルコム・ボールドリッジ賞や日本経営品質賞と比較すると、「企業活動の成果」と「戦略之策定と展開」の二つを除く経営要素はすべて取り込まれている。言い換えれば、現在の国際規格を適用できる範囲は品質保証や品質管理に重心を置いた昔の国際規格を大きく超え、企業運営を巻き込んだマネジメントの領域に踏み込んでいる。

品質管理の面では卓越している日本企業の多くが、昔の国際規格に対しその価値を見出せなかったが、現行の国際規格は採用に値する内容になっている。積極的に取り組むことで国際市場での競争力を高めることができることは確かである。むしろ、この仕組みを持たずしては、海外での企業展開はほとんど不可能だとも言える。インド、ブラジル、ベトナムなど新興国と呼ばれる国々の製造業ではISO9001は飛躍的に普及している。さらに、米国や英国など先進国では、警察や軍隊など公共的組織が採用している。昨今の日本での公的組織の非効率さと国民や住民に対するサービスの質低下を見れば、ISO9001品質マネジメントシステムの採用がその改善に一番効果的だと思う。残念ではあるが、既得権益を守ることに汲々とするこれらの組織で実現するとは思えない。


プロセス志向のマネジメント

第一回マルコム・ボールドリッジ賞を受賞した米国モトローラ社は、マネジメントシステムは、次のような単純なプロセスであるとした。

  1. いくつかの尺度を定める。
  2. いくつかの結果を見つける。
  3. 一つの問題を取り上げる。
  4. その問題に焦点を合わせる。
  5. 解決策を見つけるために分析する。
  6. 絶え間なくこのプロセスを続ける。

これは何を意味するのかを考えよう。マネジメントという一見複雑に見えるシステムを、まずいくつかのプロセスに分解する。そして、それぞれのプロセスがブラックボックス化しないように計測可能な尺度を設け、アウトプットを測定し、問題点を検出し、解決することを繰り返す。これがプロセス志向マネジメントである。

つまり、システムはプロセスの集合体であるから、個々のプロセスを継続的に改革すれば、システム全体も最終的には改善されるという経営概念である。したがってプロセス志向マネジメントは、企業経営に深く関わるすべての管理者に対して、業務を達成するプロセス、すなわちやり方を研究し、改善し、変革を実現させることを突きつけているとも言える。管理者は、業務をする人ではない。あくまで、いま行われている業務のやり方を研究し、改善し、時には変革を行う義務がある。


品質マネジメントシステムは品質管理の亜流ではない

国際規格ISO9001に掲載されている「品質マネジメントシステム・モデル」を見れば分るが、米国モトローラ社のプロセス志向マネジメントの概念と合致している。

94年版規格の求める品質システムを品質管理の亜流だと誤解している経営者に出会ったことがある。確かに、検査・試験に関する規格条項だけ見ても3項目も設けている94年版規格を平面的に眺めると、そういう誤解が生まれるかもしれない。

しかし、現在の国際規格では、企業組織を複数のプロセスの集合体であるシステムと捉えている。組織全体に亘るシステムのマネジメントと、単なる品質管理とは大きな違いがある。

国際規格は、顧客志向とプロセス志向の二つを柱とする経営の実践を求めている。


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